開業して誰もが陥る勘違い

はじめに

頑張っているのに患者さんから評価されない歯科医院があります。
自分では頑張っているつもりなのに、なぜか患者さんが少ない!!
その理由をいくつか挙げていきましょう。

1、治療することと経営することの大きな違い

勤務医の時には「いい治療をすること」が仕事のすべてでした。
治療が完結すれば自分の仕事は終わっていました。
「今日で治療が終わりましたのでお疲れさまでした」と患者さまに告げれば、仕事が一段落したともいえます。

しかし、経営者の仕事は「経営する」ことですが、経営には終わりがないのです。
仕事の種類も、治療以外にも、税務、マーケティング、スタッフ教育など多岐にわたってやるべきことがあります。
今月黒字でも来月黒字の保証はありません。

数か月は黒字が見込めても、来年再来年も同じように黒字になる保証はないのです。
治療は難症例でない限りは、ある程度の予後の予測はできますが、経営とは「仮説と検証」の繰り返しで、永遠に予測できない未来と向き合わなければならないのです。

2、歯科技術と売り上げの関係

一生懸命勉強している歯科医が陥る勘違いとは?

私の周りでも、一生懸命セミナーに出て、技術の習得に、お金と時間をかけているにも関わらず、一向に患者さんが増えずに、経営的に大変な歯医者を数多く知っています。
せっかく、真面目で勉強家の先生なので、どうにかいい成果を上げて欲しいと思うのですが、そういう先生方の多くは、根本的なところを大きく勘違いされているので、勉強しても、勉強しても、それに見合った成果が出てこないのです。

こういう勉強家の先生に共通していることは、自分はいい治療をしているのだから、いつかは患者さんもそのことに気付いてくれて、ドンドン知り合いを紹介してくれると信じていることです。

自分からは、特にアピールしなくても、治療内容を見てくれれば、他の歯科医院よりも丁寧に治療しているし、材料もいいものを使っているのだから、きっと満足して喜んでもらえ、ドンドン新患患者を紹介してもらえると勘違いしているのです。

歯科医師対象のセミナーの内容と同じレベルを、ただ患者さんに治療するだけで、患者さんにその治療の素晴らしさを実感してもらうことは、ほぼ不可能に近いことです。

勉強していることを売りにする、アピール方法が必要

歯科技術歯科知識の勉強を蓄積していくことは、今後治療を進めていく上での大きな武器になります。
しかし、その武器は、歯医者の頭の中にあるものなので、セミナーに出ただけでは、患者さんは、その知識の有無を知ることはできないのです。

売り上げを上げるには、患者数を増やし、自費治療を増やしていかないといけません。
その為には、セミナーに行ったこと、セミナーで学んだこと、勉強家であることをアピールしなければ、患者さんは貴方の頭の中を、覗き見るわけにはいかないのです。

従って、セミナーに出たり、歯科技術を勉強することと、売り上げを上げることとは、すぐに一致するものではなく、そこには勉強していることを売りにする、それなりのアピール方法が必要になってくるのです。

3、歯医者の勘違い……サービス業なので会話を多くする

歯科医院はサービス業だからコミュニケーションをとるべき?

歯科医院はサービス業だから、美容院のようにいろいろお話して、コミュニケーションをとるべきであると考えられるようになってきました。
しかし、歯医者は口の中を治療しているのですから、美容院のように、会話しながら治療する訳にはいきません。

院長、スタッフ全ての人が、仏頂面をしているクリニックには行きにくいでしょうが、きちんと笑顔があるクリニックなら、院長は必要以上に患者さんのご機嫌をとるための無駄な会話はしない方がいいと思います。

そんなことより、院長は治療内容をきちんと説明して、スタッフや受付が、PMTCの時などに、世間話をするパターンの方がいいのです。
会話が好きな先生で、空いている時間に患者さんとお話しするのはいいでしょうが、毎回毎回、患者さんの機嫌をとるのがサービス業だと思っている先生は、そんな努力はする必要はありません。

治療とその説明に、全力を注いであげればいい

きちんとしたあいさつができ、必要な時に笑顔をふりまいていれば、後は治療とその説明に、全力を注いであげればいいのです。
患者さんのタイプにもよりますが、歯科医院には、世間話をしに来ている訳ではないですし、ドクターにペチャクチャしゃべられると、治療に集中していないから、ミスが出るのではないかと、余計な心配をされる患者さんも結構いるものなのです。

自分の性格とも相談しながら考えればいいですが、しゃべらないといけないというプレッシャーを必要以上に感じる必要はないのです。

4、患者に気に入ってもらうことと信頼されることの違い

水商売の人たちがやっているようなサービスも

開業してからの数年間、私は経営を起動に乗せるためにいろんなことを試みました。
歯科医療もサービス業の1つと呼ばれるのだから、患者さんに気に入られようと、水商売の人たちがやっているようなサービスも取り入れたりしました。

例えば、会話した話は問診表の裏に書き留めて、会話の内容を何ヶ月後でも分かるようにしたり、患者さんにおべっかを言ったりして、気分よくなってもらおうと一生懸命努力しました。
歯科医院は、美容院からサービスを勉強するべきだと思い、治療の合間、合間で、なるべく会話を持つようにもしました。

本当に患者さんの機嫌をとっているという感じで、とにかく気苦労が多く疲れました。
しかし、そういうことをしたからといって、必ずしも、その患者さんが知人を紹介してくれるというわけではありませんでした

患者さんは私と世間話をしようと思って来院しているわけではない

当時は、顧客満足とは、いかに患者さんに気に入ってもらえるかということだと信じていました。
しかし、患者さんの多い今では、私はこんな努力は一切していません。
なぜなら、患者さんに気に入ってもらうことと、患者さんから信頼されることとは全く関係がないと気づいたからです。

患者さんは私に治療をしてもらいにクリニックに来ているのであって、私と世間話をしようと思って来院しているわけではありません。
私がおもしろい冗談を1つ言うよりは、私の実績を1つでも言って安心させてあげることのほうが大切なのです。

院長がしなくてはいけない努力とは?

院長がしなくてはいけないのは、患者さんに気に入ってもらうことではなく、患者さんから信頼されることなのです

患者さんからどうすれば信用してもらえるかということに知恵を使うのです。
異性に対してもそうですが、相手に気に入ってもらおうとすればするほど、相手はその人のことを軽く見て、信頼関係は築けないで、逆にバカにされてしまうのです。

歯科医院において、医師が患者さんから軽く見られれば、とても治療しづらくなってしまいます。
患者さんに気に入られる努力ではなく、信頼される努力をすればいいのです。

5、従来の認識の誤り

顧客満足(CS)とは?

これまでの歯医者は、とにかく歯科技術の勉強を最優先し、いい技術さえあれば患者さんは、口コミや紹介で自然に増えてくるというスタンスを捉えていました。
しかし、歯科の勉強をしているのに、思ったように患者さんが増えないと感じ始めた人は、歯科医院はサービス業だから、もっとサービスを向上させれば紹介患者が増えると考え、スタッフ教育に力を入れ始めました。

この2つの考えの根本には、来院された患者さんに、より高い満足を得てもらうという、顧客満足(CS)を充実させる必要があるという考え方があります。
CS によって、患者さんにリピーターになってもらって、他医院に流れるのを防ごうとする試みとしてはパーフェクトだと思います。

顧客満足より重要なこととは?

しかし、この CS というのは、来院してもらって初めて感じられることなのです。
どんな仕事においても、経営者が一番考えていることは「一度お客になってもらえれば、うちの良さを分かってもらえるのになぁー」ということなのです。
極論すれば、どこのクリニックでも、CS には力を入れているのです。

しかしどこの医院も、CS 以前の、どうやって初診患者としてクリニックに来てもらうかということには、全然力を入れていないのです。
と、いうよりも、どう力を入れればいいのかが、分からないのです。

異性と付き合う時に、付き合ってから、彼女を満足させるアイデアやテクニックは、十分持っているのに、付き合う為のアプローチの仕方を知らないのと似ています。
何もしなくても、女性の方から近寄ってくるタイプの男性なら、それでいいでしょうが、殆どの男性にとって、一番難しいことは、付き合い始めてから女性を満足させることではなくて、いかにして、付き合いをスタートしてもらうかなのです。

歯科医院を経営していく上で、最も難しく大変なこと

「一度付き合ってくれれば、僕の良さを分かってもらえるのになぁー」と思っている男性が殆どでしょうが、その「一度……」というのが最も大変なのです。
今までの歯科医院は、ハンサムな男性のように、何の努力をしなくても、新患患者には困っていなかったのが、今からの歯科医院は、並の男性か醜男なのだと自覚して、アプローチ方法を変えていく決心をしなくてはいけません。

歯科医院を経営していく上で、最も難しく大変なことは、「新患患者を集めること」で、それを CS と同等かある意味、CSよりも重視することを忘れてはいけない時代であることを、認識する必要があるでしょう。

☆まとめ

いかがでしたでしょうか?
開業とは自分の行っていることを患者さんから評価してもらうことになります。
自分の行っている治療やサービスが患者さんの期待以上のものであれば患者さんは増えていき、患者さんの期待値より低いものであれば他の医院に転院されます。

患者さんに評価してもらうため、信頼してもらうためには何をしていけばいいのかは、時代と共に変わってくるものなのかもしれませんね。

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